退職は就業規則1ヶ月前と民法2週間どちらが優先?

就業規則の1ヶ月前ルールと民法627条の2週間ルールの優先関係の解説

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就業規則に「退職は1ヶ月前までに申し出ること」と書かれていても、その1ヶ月をあなたに強制する力はありません。根拠は民法第627条第1項ではなく、その手前にある労働基準法第92条第1項です。

この記事が扱うのは、上司に「就業規則は1ヶ月前だ」と言われて言葉に詰まった場面です。ネット上の解説はほぼ全て「民法が優先します」で終わっており、なぜ就業規則が民法に負けるのかを条文で示していません。条文の筋道を持たずに口頭で反論しても、規則の冊子を出されると押し切られます。

あわせて、月給制と年俸制についての広く出回った誤解も整理します。「月給制は民法627条2項で翌月末まで縛られる」という説明は、2020年4月1日の改正で成り立たなくなりました。条文の原文を並べて確認します。

このページでわかること
  • 就業規則が民法に負ける理由を、労働基準法第92条第1項の条文で示す
  • 民法627条2項・3項が「使用者からの申入れ」限定になった2020年の改正
  • 月給制・年俸制でも2週間で辞められる条文上の根拠
  • 申し出日から退職日・最終出社日を逆算した、有給残日数別の早見表
  • 就業規則の1ヶ月前を守らなかった場合に実際に起きる3つのこと
  • 2週間で辞めると決めたあとに踏む4つの手順

結論|民法の2週間が優先し、就業規則の1ヶ月前は強制できません

期間の定めのない雇用契約であれば、申し出から2週間で契約は終了します。会社の承諾も、就業規則が定める予告期間の遵守も、その効力の条件ではありません。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

民法 第627条第1項

この条文で押さえるべきは3点です。「いつでも」と書かれていること、「解約の申入れ」であって申請ではないこと、そして「経過することによって終了する」と書かれていることです。終了の効果は期間の経過そのものから生じます。会社が受け取りを拒んでも、上司が承諾しなくても、期間が過ぎれば契約は切れます。

一方で、就業規則の1ヶ月前ルールが完全に無意味かというとそうではありません。効力は「守らなくても退職は成立する」ですが、守らなかったことが退職金規程の適用に影響する余地は残ります。この2つを混ぜて考えると判断を誤るので、後半で分けて扱います。

なぜ就業規則が民法に負けるのか|労働基準法第92条という根拠

就業規則が民法に負ける理由は、就業規則が法令の下位にあると労働基準法が明文で定めているからです。「民法のほうが強いから」という漠然とした説明ではありません。

就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。

労働基準法 第92条第1項

さらに労働契約法が、法令に反する就業規則の効果を打ち消します。労働契約法第13条は、就業規則が法令に反する場合、その部分については第7条・第10条・前条(第12条)の規定を適用しないと定めています。就業規則が労働契約の内容になる仕組み自体が働かなくなるという意味です。

退職の予告期間はどのルールで決まるか法令(民法第627条第1項=申入れから2週間で終了)労働基準法第92条第1項「就業規則は、法令又は労働協約に反してはならない」労働協約(労働組合と会社の取り決め)就業規則(「退職は1ヶ月前までに申し出ること」)上位の法令に反する部分は、労働契約法第13条により労働契約の内容にならない個別の労働契約労働者に有利な方向の上乗せ例:就業規則が法定を上回る有給を付与する→ 有効(労働契約法第12条の最低基準効)就業規則の水準まで労働契約が引き上がる労働者を法令より縛る方向例:2週間の予告期間を1ヶ月に延ばす→ その部分は労働契約の内容にならない労働基準法第92条第1項・労働契約法第13条
就業規則が上乗せできるのは「労働者に有利な方向」だけです。予告期間を法定より長くする定めは、労働者を縛る方向の上乗せにあたります

就業規則の「最低基準効」は労働者を縛る方向には働きません

就業規則には強い効力があると聞いたことがあるかもしれません。それは事実ですが、働く方向が一方通行である点が見落とされています。労働契約法第12条は、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分を無効とし、無効になった部分は就業規則の基準によると定めています。

つまり就業規則は、労働条件の下限を保証する仕組みです。有給を法定より多く付与する定めは有効に働きます。しかし退職の予告期間を法定より長くする定めは、労働者の条件を下げる方向の変更であり、この仕組みの対象外です。上位の法令に反する以上、労働契約の内容にもなりません。

1ヶ月前ルールが就業規則に書かれること自体は違法ではありません

会社が就業規則に予告期間を書くこと自体は禁じられていません。労働基準法第89条第3号は、常時10人以上を使用する使用者に対し、退職に関する事項(解雇の事由を含む)を就業規則に記載して行政官庁に届け出るよう義務づけています。退職の手続きを規則に書くのは、むしろ法が求めていることです。

問題になるのは、書かれていること自体ではなく、「1ヶ月経たないと辞められない」と運用する場面です。厚生労働省も解雇・退職のルールで退職の申し出に関する取り扱いを案内しています。引き止めの言い分がどこまで通るのかは退職代行の引き止め対策|違法な引き止めと対処法で整理しています。

「月給制だから翌月末まで」は2020年に終わった誤解【2026年版】

ここが本記事で最も訂正したい論点です。民法第627条第2項と第3項は、現行の条文では「使用者からの解約の申入れ」だけを対象にしています。労働者が辞める場合には適用されません。

期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

民法 第627条第2項

六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

民法 第627条第3項

第2項の主語は「使用者からの解約の申入れ」です。この5文字は、2020年4月1日に加わりました。e-Gov法令検索で同じ条文を2020年3月31日時点と2020年4月1日時点で並べると、違いが1箇所だけ現れます。

期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。

民法 第627条第2項(2020年3月31日まで適用されていた条文)

改正前は主語が限定されておらず、月給制の労働者にも適用されるという解釈が通用していました。いま流通している「月の前半に言えば当月末、後半なら翌月末」という説明は、この改正前の条文を前提にしています。第3項の「前項の解約の申入れ」も第2項を指すため、年俸制であっても労働者側に3ヶ月前予告の義務は生じません。

賃金の決め方いまも流通している説明現行条文での実際根拠
日給・時給制申し出から2週間で退職できる申し出から2週間で退職できる民法第627条第1項
月給制(完全月給制)月の前半に申し出て当月末、後半なら翌月末申し出から2週間で退職できる第2項は使用者からの申入れ限定
年俸制3ヶ月前に申し出る必要がある申し出から2週間で退職できる第3項は第2項=使用者側を指す
有期契約(契約期間あり)期間内は辞められないやむを得ない事由があれば直ちに解除できる民法第628条

条文の全文はe-Gov法令検索の民法第627条で確認できます。会社側が「月給制だから月末まで」と説明してきた場合、この条文の主語を一緒に読むのが最短の反論です。解釈の争いではなく、条文に書かれている主語の問題だからです。

有期契約で働いている場合だけは結論が変わります

契約社員や派遣社員など期間の定めがある契約は、第627条の対象外です。この場合の根拠は民法第628条で、「やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」と定めています。2週間ではなく即時ですが、やむを得ない事由という要件が必要になります。契約期間の途中で辞める場合の考え方は契約社員が契約期間の途中で辞める方法で扱っています。

申し出日から退職日・最終出社日を逆算する早見表

2週間という言葉だけでは、いつまで出社するのかが決まりません。実際に必要なのは、退職日と最終出社日という2つの日付です。この2つは有給休暇の残日数で大きくずれます。

まず起算日を確定します。民法第140条は「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない」と定めており、申し出た日は数えません。第141条が「期間は、その末日の終了をもって満了する」と定めているため、末日いっぱいまで在籍します。

この早見表の前提(この条件でのみ成立する数字です)
  • 申し出日:2026年9月1日(火)/期間の定めのない雇用契約
  • 起算日:9月2日(水)/2週間経過日=9月15日(火)=退職日
  • 勤務:土日休みの週5日勤務。9月2日から9月15日までの勤務日は10日
  • 有給は退職日の直前から連続して充てるものとします
  • 2026年の敬老の日(9月21日)と秋分の日(9月23日)はこの期間に入りません
有給の残日数有給を充てる日最終出社日申し出後に出社する日数
0日なし9月15日(火)10日
3日9/11・9/14・9/159月10日(木)7日
5日9/9〜9/15の勤務日9月8日(火)5日
8日9/4〜9/15の勤務日9月3日(木)2日
10日以上9/2〜9/15の勤務日すべて9月1日(火)=申し出た日0日

表の最終行が、この記事で最も実務的な結論です。有給が10日以上残っていれば、申し出た日を最後に一度も出社せずに退職日を迎えられます。就業規則が1ヶ月前と定めていても、必要な有給日数が増えるだけで、辞められないわけではありません。

就業規則の1ヶ月前に従うと、出社日数は10日増えます

同じ前提で、就業規則の1ヶ月前に従って10月1日を退職日にした場合を計算しました。9月2日から10月1日までの勤務日は20日です(9月21日の敬老の日と9月23日の秋分の日を除いています)。

有給が10日ある人で比べると、民法どおりなら出社日数は0日、就業規則に従うと10日です。同じ有給残日数で、出社しなければならない日が10日変わります。有給を消化しきれずに退職日を迎えた分は、原則として消滅します。買い取りの義務は会社にありません。

有給の申請自体を拒まれるケースについては有給消化の拒否は違法|時季変更権の限界で条文から整理しています。退職時の有給消化の進め方は退職代行で有給消化する方法を参照してください。

申し出日から退職日と最終出社日を逆算してカレンダーで確認する場面

就業規則の1ヶ月前を守らないと起きること|3つの事例別リスク

退職が成立することと、何のリスクもないことは別です。実際に起きうるのは3つで、そのうち法的に争いになる可能性があるのは1つだけです。順番に見ていきます。

リスク1|退職金が減額される(規程次第で現実に起こります)

3つのうち最も現実味があるのがこれです。労働基準法第89条第3号の2は、退職手当の定めを置く場合、適用される労働者の範囲・決定方法・計算方法・支払方法・支払時期を就業規則に記載するよう求めています。支給条件は規程に書かれたとおりに運用されます。

ただし無制限ではありません。労働基準法第16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。予告期間を守らなかったことへの制裁として一律に没収する定めは、この条文との関係で争う余地があります。対処としては、切り出す前に退職金規程の該当条文を写真に撮っておくことです。減額幅がわかれば、2週間で辞める判断の損得を数字で比べられます。

リスク2|損害賠償を請求すると言われる(実際の請求はまれです)

「1ヶ月前に言わなかったから損害賠償だ」という言い方は、引き止めの場面で頻繁に使われます。ただし請求が通るには、会社側が具体的な損害額と、その損害があなたの行為から生じたことを立証しなければなりません。予告期間を守らなかったこと自体を理由に金額をあらかじめ定めておくことは、労働基準法第16条が禁じています。

対処は、口頭でのやり取りを避けて記録が残る形にすることです。退職届を内容証明郵便で送れば、いつ意思表示が到達したかが記録に残ります。退職届の書き方と郵送手順は退職代行で退職届は必要?書き方と郵送手順にまとめています。

リスク3|離職票や源泉徴収票の発行が遅れる(手続きで解決できます)

揉めたまま辞めると、書類の発行が後回しにされることがあります。ただしこれは会社の義務であり、遅れたときは手続きで解決できます。離職票が届かない場合の対処は離職票が届かない場合の対処法で扱っています。

労働条件そのものに疑問がある場合や、退職を切り出したあとに不利益な扱いを受けた場合は、厚生労働省の労働条件相談ほっとラインで無料相談できます。

それでも就業規則に合わせたほうがいいケース

2週間で辞める権利があることと、そうすべきことは違います。退職金規程に減額条項があり、減額幅が大きい場合は、1ヶ月待つほうが金額として得になることがあります。同じ業界内で転職する場合や、前職の在籍確認が入る可能性が高い場合も同様です。判断材料は感情ではなく、退職金規程に書かれた金額です。

2週間で辞めると決めたあとの4ステップ

手順そのものは単純です。重要なのは、意思表示がいつ会社に届いたかを客観的に残すことです。起算日が動くと退職日も動きます。

  • ステップ1(当日)|退職金規程と就業規則の該当条文を確認する — 予告期間の条文と、退職手当の減額条項の2つを撮影します。社内ポータルにある場合はその場で保存してください
  • ステップ2(当日〜翌日)|退職日を明記した退職届を作成する — 「一身上の都合により、2026年9月15日をもって退職いたします」のように、退職日を断定形で書きます。「退職したく」という願い出の形にすると、承諾が必要な合意退職と読まれます
  • ステップ3(同日)|手渡しか、拒まれたら内容証明郵便で送る — 配達証明を付ければ到達日が記録されます。到達日の翌日が起算日です
  • ステップ4(到達の翌営業日)|有給の申請を出す — 早見表で出した日程どおりに、取得日を並べて書面またはメールで提出します。退職日をまたぐ日程は組めません

退職代行を使う場合も流れは変わりません。連絡から退職成立までの全体像は退職代行の流れ|6ステップで完全解説で確認できます。出社せずに辞めたい場合の条件は退職代行で即日退職する条件と流れにまとめています。

就業規則を盾に引き止められたときの選択肢

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よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に「退職は1ヶ月前まで」と書いてあります。従わないと違反になりますか?

A. 就業規則の違反にはなりますが、退職そのものは有効に成立します。労働基準法第92条第1項は「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と定めています。民法第627条第1項が2週間で雇用が終了すると定めている以上、それより長い予告期間を労働者に強制する部分は法令に反します。労働契約法第13条により、その部分は労働契約の内容になりません。

Q. 月給制です。就業規則ではなく民法627条2項で翌月末まで縛られると聞きました。

A. 現行の条文では縛られません。民法第627条第2項は「期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる」と定めており、対象は使用者からの申入れに限定されています。2020年4月1日施行の改正でこの限定が入りました。改正前の解説を残している記事が多いため誤解が広がっていますが、月給制の労働者にも第1項の2週間が適用されます。

Q. 年俸制の場合は3ヶ月前に言わないといけませんか?

A. 労働者側からの退職には適用されません。民法第627条第3項は「六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない」と定めています。ここでいう「前項の解約の申入れ」とは第2項の申入れ、つまり使用者からの申入れです。年俸制の労働者が辞める場合も根拠は第1項であり、2週間で終了します。

Q. 2週間で辞めると退職金を減らされることはありますか?

A. 退職金規程に減額条項があれば、減額される場合があります。退職手当は労働基準法第89条第3号の2により、定めを置く場合は就業規則の記載事項とされており、支給条件は規程に従います。ただし労働基準法第16条は違約金や損害賠償額をあらかじめ定める契約を禁じているため、予告期間を守らなかったことに対する制裁として一律に没収する定めは争う余地があります。退職金規程の該当条文を先に確認してください。

Q. 2週間の数え方は、申し出た日を1日目としますか?

A. 申し出た日は数えません。民法第140条は「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない」と定めています。9月1日に申し出た場合、起算日は9月2日で、14日目にあたる9月15日の終了をもって期間が満了します。民法第141条が「期間は、その末日の終了をもって満了する」と定めているためです。退職日は9月15日になります。

Q. 退職届を受け取ってもらえない場合はどうすればいいですか?

A. 内容証明郵便で送れば、受け取りを拒まれても意思表示は到達します。民法第627条第1項の解約の申入れは、会社の承諾を必要としない一方的な意思表示です。受理という手続きは法律上存在しません。配達証明を付ければ、いつ到達したかが記録として残り、2週間の起算日を客観的に示せます。手渡しにこだわる必要はありません。

退職を切り出す前に確認する3つのこと

切り出す前に手元で終わる作業が3つあります。順番に片づけてから話す日を決めてください。

  • 自分の契約が「期間の定めのない雇用」かを確認する — 雇用契約書に契約期間の欄があるかどうかで、根拠が民法第627条か第628条かに分かれます。ここを取り違えると2週間という前提が崩れます
  • 退職金規程の減額条項を撮影する — 予告期間を守らなかった場合の扱いが書かれているかを見ます。書かれていなければ、2週間で辞めることの金銭的なデメリットは基本的にありません
  • 有給の残日数を給与明細で確認する — 残日数が申し出後の勤務日数以上あれば、申し出た日を最後に出社を終えられます。早見表の前提に自分の勤務日数を当てはめて計算してください

3つとも、上司に何も告げずに進められます。条文はすでにあなたの側にあります。動かす必要があるのは、条文ではなく日付です。話し合いを重ねても結論が動かない状態が続いているなら、窓口ごと切り離して2週間を確定させるほうが早く終わります。

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